別れ
僕は生れ育った実家へ久しぶりに戻った。
急な帰宅に少々母親は驚いた様子だったけれど嬉しそうだった。
当時、僕の家は商売をしていて、僕は武田鉄也と同じ「角のタバコ屋のせがれ」だった。
母親は店番をしているのでだいたい家にいる。
父親は家具を作る職人さんで、毎日工場へ家具を作りに出勤していて帰りは遅く僕が家に着いた時はまだ帰っていなかった。
姉は当時大学を卒業したばかりで就職が内定していた。
姉も僕が家に帰った時はまだ帰宅していなかった。
弟は高校生でクラブ活動があり家に帰るのが遅かった。
弟も家にいなかった。
僕が家に帰った時は母親しかいなかった。
「なんや急に家に帰ってきて、どないしたんや?」母親はご飯の支度をしながら僕に聞いてきた。
「あんなぁ~実は東京行くことになってん」
「はぁ??」母親は裏返った声を出した。
僕はオーディションに受かったことなんかを説明した。
「あぁ~東京から何度も電話くれはった人おったなぁ。あの人の話かいな?」
「そうや・・・」
「へぇ~凄い話やな、ほんまかいな?あんたにそんな才能あるとは知らんかったわ・・」母親は僕の顔をまじまじと見ながら独り言のように言った。
「そうやねん・・・声が気に入られてなぁ、ほんで東京へ呼ばれてん・・」
「あんた、学校はどないすんの?」
「もう休学届けだしてきた」
「東京なんか行って大丈夫なんか?生活できるんか?」母親は心配そうだった。
「まだ、住むところとかは決まってないねんけど、しばらくは樋口さん言う人の家にお世話になるねん」
「樋口さん?誰なん?」
「ドラムやってる人で物凄いエエ人やなねん」
「ほんまに、それは良かったなぁ。迷惑かけたらアカンで」
「ほんで、あんた東京行くお金あるんか?しばらく暮らせるお金あるんか?」
「あぁそれは大丈夫や・・」僕は嘘をついた。
友人に東京へ行くなら「夜行バスが安いで」と教わり、夜行バスの片道切符を買っていたけれど、あと数千円しかポケットに入っていなかった。
「ほんで、こんど大阪へはいつ帰ってくんの?」
「分からん・・・向こうの状況が落ち着いたら一旦戻ってくるつもりやけど・・」
「まぁーあんたの好きなことが仕事になるんやったら・・それでエエんかなぁ・・・・。」意外と母親は楽観的だった。
「あんたの歌で上手いこと行くんかどうか知らんけど・・・あかんかったらいつでも大阪へ戻っておいで。あんたには帰る場所があるからな・・・」
「親父やおねーちゃん、弟にも説明しておいてや」親父に直接話すことが出来なかったのが残念だった。
「なんでや?あんた今日は家泊まっていくんやろ?」
「いやバスが今晩京都駅から出るねん・・・それ乗って東京へ行くわ。そやから、もうそろそろ京都へ帰らなあかんわ・・」
「ええ!!えらい急な話やなぁ・・・ほんまかいな!」家族への説明が最後になったことを後悔した。
「あんた東京行ったらみんなに迷惑かけたらあかんで!みんなに好かれるように、愛されるようにせなあかんで・・。ほんでな、絶対に人から後ろ指刺されるようなことしたらアカンで!」
これが母親の最後の言葉だった。
「うん、分かった」
「これでお弁当でも買いなさい」と母親が僕に少しのお金をくれた、そして母親の目から少し涙が流れた。
「心配せんとき!なんとかなるわ!頑張るから・・」母親へ言っているのか、自分へ言っているのか分からなかった。
自分の勉強部屋へ行ってみた。
懐かしいLPや音楽雑誌が昔のまま机の上にあった。
シャラや高校時代のバンド仲間と一緒に撮った写真を見つけた。
(まさか・・俺が音楽で東京へいくとは思わんかったわぁ・・・)
写真を見ながら独り言を言った。
(そう言えば、シャラとも話ししてないなぁ・・・)
シャラへ電話するか迷ったけれど、結局出来なかった・・。
僕は実家にしばらくいて彼女の待つ京都へ帰った。
僕はとてつもなく寂しかった・・・・。
急な帰宅に少々母親は驚いた様子だったけれど嬉しそうだった。
当時、僕の家は商売をしていて、僕は武田鉄也と同じ「角のタバコ屋のせがれ」だった。
母親は店番をしているのでだいたい家にいる。
父親は家具を作る職人さんで、毎日工場へ家具を作りに出勤していて帰りは遅く僕が家に着いた時はまだ帰っていなかった。
姉は当時大学を卒業したばかりで就職が内定していた。
姉も僕が家に帰った時はまだ帰宅していなかった。
弟は高校生でクラブ活動があり家に帰るのが遅かった。
弟も家にいなかった。
僕が家に帰った時は母親しかいなかった。
「なんや急に家に帰ってきて、どないしたんや?」母親はご飯の支度をしながら僕に聞いてきた。
「あんなぁ~実は東京行くことになってん」
「はぁ??」母親は裏返った声を出した。
僕はオーディションに受かったことなんかを説明した。
「あぁ~東京から何度も電話くれはった人おったなぁ。あの人の話かいな?」
「そうや・・・」
「へぇ~凄い話やな、ほんまかいな?あんたにそんな才能あるとは知らんかったわ・・」母親は僕の顔をまじまじと見ながら独り言のように言った。
「そうやねん・・・声が気に入られてなぁ、ほんで東京へ呼ばれてん・・」
「あんた、学校はどないすんの?」
「もう休学届けだしてきた」
「東京なんか行って大丈夫なんか?生活できるんか?」母親は心配そうだった。
「まだ、住むところとかは決まってないねんけど、しばらくは樋口さん言う人の家にお世話になるねん」
「樋口さん?誰なん?」
「ドラムやってる人で物凄いエエ人やなねん」
「ほんまに、それは良かったなぁ。迷惑かけたらアカンで」
「ほんで、あんた東京行くお金あるんか?しばらく暮らせるお金あるんか?」
「あぁそれは大丈夫や・・」僕は嘘をついた。
友人に東京へ行くなら「夜行バスが安いで」と教わり、夜行バスの片道切符を買っていたけれど、あと数千円しかポケットに入っていなかった。
「ほんで、こんど大阪へはいつ帰ってくんの?」
「分からん・・・向こうの状況が落ち着いたら一旦戻ってくるつもりやけど・・」
「まぁーあんたの好きなことが仕事になるんやったら・・それでエエんかなぁ・・・・。」意外と母親は楽観的だった。
「あんたの歌で上手いこと行くんかどうか知らんけど・・・あかんかったらいつでも大阪へ戻っておいで。あんたには帰る場所があるからな・・・」
「親父やおねーちゃん、弟にも説明しておいてや」親父に直接話すことが出来なかったのが残念だった。
「なんでや?あんた今日は家泊まっていくんやろ?」
「いやバスが今晩京都駅から出るねん・・・それ乗って東京へ行くわ。そやから、もうそろそろ京都へ帰らなあかんわ・・」
「ええ!!えらい急な話やなぁ・・・ほんまかいな!」家族への説明が最後になったことを後悔した。
「あんた東京行ったらみんなに迷惑かけたらあかんで!みんなに好かれるように、愛されるようにせなあかんで・・。ほんでな、絶対に人から後ろ指刺されるようなことしたらアカンで!」
これが母親の最後の言葉だった。
「うん、分かった」
「これでお弁当でも買いなさい」と母親が僕に少しのお金をくれた、そして母親の目から少し涙が流れた。
「心配せんとき!なんとかなるわ!頑張るから・・」母親へ言っているのか、自分へ言っているのか分からなかった。
自分の勉強部屋へ行ってみた。
懐かしいLPや音楽雑誌が昔のまま机の上にあった。
シャラや高校時代のバンド仲間と一緒に撮った写真を見つけた。
(まさか・・俺が音楽で東京へいくとは思わんかったわぁ・・・)
写真を見ながら独り言を言った。
(そう言えば、シャラとも話ししてないなぁ・・・)
シャラへ電話するか迷ったけれど、結局出来なかった・・。
僕は実家にしばらくいて彼女の待つ京都へ帰った。
僕はとてつもなく寂しかった・・・・。
by loudness_ex
| 2008-06-10 13:19